1. AO-L & MOAG

  2. 高速ガイディング & オフアキシスアダプター    2006/10/13(土)〜 2007/11/12

Tips

 

とても優れたコンセプトなんだけど...


 AO-LとMOAGの組み合わせを知った時に、もうこれしかないと思いました。Haフィルターでの撮影を始めつつあったので、Haでのガイディングインターバルの長さにはうんざりしてました。4秒も5秒もかかってしまうのではAO−Lの良さなんて出るはずありません。下図を見て貰うとわかりますが、望遠鏡側から、AO-L、MOAG(+リモートガイドヘッド)、STLと並んでいます。元々、AO-LはSTLと接して接続されるので、その状態での設計がなされています。光路に対してのアパーチャーがその状態に対してぴったりに設計されてるんですね。それなのにその間にこんな大きなMOAGが入るんですから、いろいろと問題が起きないわけがありません。





謎のゴースト


 下の画像をご覧ください。画面中央左側に細い光の筋が入っています。ゴーストなんですが、どこで乱反射をおこしているのか、はじめまったく解りませんでした。







いろいろ試してみると、なんと下図の(A)の部分の左右のエッジが乱反射を起こしていたのです。本来のAO−Lの使い方ではこのエッジの部分はもっとSTLに近く、このような乱反射はおこらないのですが、途中にMOAGを挟んだので、乱反射をおこす位置に来てしまったわけです。








右の写真のように、このエッジ部分に植毛紙を貼りました。これでゴーストを消すことが出来ました。



出すべきか、出さざるべきか...




 (B)の部分をみてください。MOAGのインナーミラーが光路に思いっきり侵入しているのがわかると思います。この状態で撮影したのが、下の画像です。ミラーの影が映りこんでしまっています。この状態でフラット補正も行って見ましたが、うまく消えたり消えなかったりという結果でした。




 この問題に対して僕がとった解決策は、”インナーミラーを引っ込めること”でした。CCDチップの光路に引っかからないようにミラーを上に上げてしまえば良いと単純に思ったのです。しかし、ここからさまざまな手間と問題が発生しました。MOAGのインナーミラーは、その上下位置を変えることに対して、とても不親切です。下図のように、MOAG本体とミラーアセンブリーの間にプレート(0.1”,0.05”,0.025”の三種類があります)を挟むことによって、調整が出来るのですが、これを固定するネジが一種類しかありません。つまり、最適な長さのネジがないと固定出来ないというとても原始的な設計なんです。設計者のDonもリリースノートの中で、”ここは将来改善されるだろう”なんて書いてます。さっそくメールで問い合わせると、”対応する長さのネジを送るよ”と言ってきました。でも、ネジくらいならどうにかなるだろうと思って、”こっちでどうにかするから”と返答しました。




 しかし、しかし、最適な長さのものがなかなか見つからない。で結局、Donの返事にもあったんですが、ネジをカットすることにしました。4本のネジがあるのですが、とりあえず2本をプレートの枚数に合うようにカットし、2本のネジで固定しました。



2つになったガイド星


 すると思惑どおりミラーの影が消えて、完全な画像になりました。しかし、今度は、ガイド星が2重星になっているのです。「間違って2重星を導入してしまったのか?」と思いましたが、これは2重星ではなく、1つの星が2つに見えているのです(この状態の画像は撮ってありません。お見せできないのが残念です)。


 この原因は、AO-Lの補正ガラスのエッジの部分をMOAGのインナーミラーが跨いでしまった為でした。AO-Lの補正ガラスは 35mmフルサイズ+αのCCDチップをガイドするような大きさになっていて、その余白にインナーミラーの入る余地はなかったのです。補正ガラスは、鉄のフレームに固定されており、鉄のフレームとの間には微妙な隙間もあります。これらが乱反射、回折現象を起こし、あのような2重星を作り出したのでしょう。AO-Lの補正ガラスがもう少し大きければ...ね。

 しかし、メインチップに影が映らないギリギリの位置がここなので、どうしてもこの位置を変えるわけにもいかない。ん〜、どうしようということになりました。




ガイドチップがAO-Lのエッジを跨いでしまっていて、ガイド星が2重に!




フラットで解決する道を選択


 振り出しに戻りました...

今度は、ライトイメージに影が出てもよいからインナーチップを最適な位置に戻し、精密なフラット補正でこれを消すことにしました。「良いフラットが作れれば、絶対に消えるはず」と考え、なぜ完全に補正できないフラットがあるのかをつぶしていきました。これまで自分はスカイフラットを使っていたのですが、スカイフラットは天候に左右されやすく、また雲が出ているとフラット画像に傾斜が生まれます。フィルター、PA(ローテーターの回転角)、フォーカス位置の3つできちんとフラットライブラリーを管理すれば良いのですが、スカイフラットでは、そんなに頻繁にフラットを撮ることが出来ず、あきらめていたのです。しかしちょうどEL板によるフラットシステムが完成し、使える目処がたってきたので、以上3つのパラメータを管理できるように、撮影管理プログラムをもう一段改良することにしました。EL板なので天候に左右されず、フォーカス位置を変える毎に気軽にフラットを撮ることが出来ます。このようなシステムにより、インナーミラーの影を完全に消すことが出来ました。満月時など背景の明るさに傾斜がある場合は綺麗に消えてくれませんが、それ以外であれば完全に影は消えます。これでもう影を気にすることなくミラーの位置を決定することが出来ます。下図の様に、ガイドチップがAO-Lの補正ガラスの中に完全に入るようにしました。




インナーミラーを下げてガイド星はバッチリ(ミラーの影は出ますが)



今度はピントが来ない


 そうしたら今度はピントが来ません。インナーミラーの位置を下げるということは、必然的にガイドチップ位置が遠ざかります。MOAGの接眼部を一番最短にしても駄目。 あとわずかなんですがピントが来ないんです。 結局、試行錯誤の結果、0.05”と0.025”のプレートを一枚ずつ外して少し上げました。多少、AO-Lガラスのフレームにガイドチップの視野が重なってしまいますが、この程度なら問題はないようです。





 しかしこんな微妙なセッティングを強いられるとは思いませんでした。使用する望遠鏡のスペック(焦点距離)によっては、調整が不可能のものもあるとマニュアルにも書かれています。上の図では省略してありますが、実際にはミラーとガイドチップの間に凹レンズが入ります。このレンズによって焦点の位置を短くしているんですね。もし合わない場合は、このレンズを特注で用意するということみたいです。つまり買ってきてすぐに使えるようなものではないということですね。



AO-Lのバンプ動作


 SBIGのAO-Lは、ガラス面を傾けることによってガイディングを行いますが、ガラス面の可動範囲の何パーセントかを超えるとバンプ動作を行います。これは通常のガイディングと同じようにリレーを使って架台を動かします。架台のリレー動作による補正量は、赤経赤緯方向で違っているのが普通です。つまり、同じ1秒のリレー動作をおこなっても、赤経、赤緯で実際に架台が動く量には差があります。通常のリレーガイディングの場合は、この差をきちんと補正して(予め設定してあれば)リレー操作を行ってくれます。しかし、AO-Lの場合は、この補正を行いません。

 また、ローテーターによりガイドチップが回転した場合(PAが0度以外の場合)、ガイドチップのX、Y方向と、赤経、赤緯方向にはズレが生じます。通常のリレーガイドの場合は、MaxImDLがこのズレをGA(ガイドアングル)を使ってきちんと補正してくれます。 しかし、AO-Lは、そのような補正を行いません。


 AO-Lは、「補正ガラスがXXパーセント以上傾いたら、リレーをXX秒動かす」ということしか行ってくれません。補正ガラスのX,Y方向が赤経、赤緯に対してどうマッピングされるかは、事前のキャリブレーションで決定されます。


  1. 箇条書き項目「マッピング」なんて言葉を使っていますが、実際には、赤経赤緯2方向に対して+なのかーなのかと、
    赤経赤緯をスワップするかどうかの3つのパラメータ( XReverse、Yreverse、IsSWap)をセッティングするだけです。

つまり、基本的にAO-Lは、撮影前に、PAを変更したら必ずキャリブレーションを行わなければならないということになります。しかし、リモートで自動運転を目指す身としては、これではとても困ります。キャリブレーションは時間がかかりますし、失敗するこも多々ありますから。



ちょうど良いタイミングでACPがバージョンアップ


 どうしたものかと思っていたら、ちょうどよいタイミングでACPがAO-Lのキャリブレーション無しのガイディング動作を実現してくれました。Bobに感謝です。つまり、PAの値を見て、バンプ動作のマップパラメータの設定を自動的に行ってくれるのです。詳しい動作は、彼のサイトに譲りますが、これによって、ソフトウェアー的にも完璧になりました。



そしてその成果は?


 次の画像を見てください。ほぼ同じシーイングで撮影したM1(カニ星雲)の比較画像です。

右がノーマルな撮影。左がAO−Lで撮影したものです。フィラメントの詳細構造を見ると、解像度が確実に上がっています。すばらしい効果です。ただし、このような効果が出るのはシーイングの良い時だけ。

「AO−Lの効果は、シーイングの良いときに、それをよりよくするもの」ということですね。




しかし、このシステムの一番の効果は、実は、フィルター前の光でガイドできるってことなんですね。フィルターによる減光がないので、最短のインターバルでガイドの露光をすることが出来ます。まあ、その効果だけならMOAGだけでも良いのですが...


ということで、MOAG&AO−Lも無事に使えるようになり、大変良い結果が得られています。

いろいろ苦労はありましたが、導入して大正解でした。


2008年4月8日

(使用開始は2007年12月7日)