よい点、悪い点


  言わずと知れたSBIGのリサーチグレードカメラ(35mmフルサイズ)を使っています。なにしろ世界的に見て一番スタンダードな冷却CCDカメラですから情報が豊富。SBIGのメーリングリスト(英語)に入っているといろいろな情報も入手しやすいです。

 SBIGという会社は、アイデア豊富な会社で、インナーガイドチップやAO-Lなど、さまざまな補助機能を開発しています。しかし、CCDから出力される画像のSNや、ダウンロードスピードなどの基本スペックがあまりよくありません。ダウロードスピードは30秒以上かかるし、ダークノイズ自体が多いです。また、ダーク補正で消えないノイズがランダムに発生します(これは私の電源環境のせいかもしれません)。このあたりが改善されれば、本当に良いカメラだと思います。

 またビニングを行うと、輝星の右方向にストリークのようなにじみが現れます。当初2x2ビニングで撮影していたため、必ずこの現象が現れました。SBIGにも問い合わせ、いろいろ調べて貰いましたが、「これは仕様である」という結論になりました。ビニングをOnChipで行わない設定にすると発生しないので、CCDの転送バッファがオーバーフローしているような気がします。

 結局現在は、L画像はもちろん、RGB画像も全てビニング無しで撮影しています。まあ、この問題があるからそうしているのではなく、ハローを防ぐ為や、より高解像度を求める為にこのようにしているので、私としてはこの仕様でも問題ありませんが、ビニングで使われている方はどうしているのでしょうか?


 悪い点ばかり書いてしまいましたが、現在までリモート操作を行っていて、操作不能に陥ったりすることはなく、そういう点ではとても信頼性のおけるカメラです。



除湿チャンバーのメンテナンス


 使いはじめてから、2年3ヶ月目で、CCDカバーガラスが冷却と同時に曇るようになりました。STLはCCDチャンバー内をシリカゲルで除湿しする方式です。すぐに除湿プラグの再生をすればよいのですが、リモート天文台なので、すぐに現場に行けません。とりあえず冷却ソフトウェアーの改良を行って対処しました。冷却を目標温度まで一気に下げるのではなく、-10度下げたら数分待ち、その後また-10度下げるというようにしたのです。このように丁寧に冷却してあげると駄目になったプラグでも、撮影に支障をきたしませんでした。このことがきっかけで、「優しく冷却するプログラム」を作ることが出来ました。トラブルは、良い改良が出来る宝箱ですね。



AO-L&MOAG(高速ガイディング&オフアキシス装置)


 ガイディングはインナーガイドチップで行ってきましたが、フィルターを通った光を使うために暗くなり、短いインターバルでガイドが出来ません。特にHaフィルターを使った場合、通常の4倍から8倍程度の露出時間がかかり実用に耐えませんでした。また、より高い精度のガイドを目指し、AO-L&MOAGを導入しました。


 AO−Lは、光路上にガラスをおき、そのガラス面の傾きをコントロールすることによって、恒星像を同じ位置に補正する装置です。通常の架台をコントロールするガイディングに比べ、高レスポンスが期待できます。MOAG(オフアキシス装置)は、このAO-Lと組み合わせて使うために設計されました。AO-Lに入る前の光を外部ガイダーチップに導きます。フィルターに入る前の光を使うため、フィルターによる減光が起こらず、最短の時間でガイディングを行うことが出来ます。

 この2つの装置の導入で、取得出来る画像の解像度がアップしました。しかしMOAGは、使いこなすのがとても難しい装置です。というのは、AO-Lの補正ガラスの大きさが35mmのCCDチップサイズとあまりかわらない為に、どうしても、MOAGの反射プリズムが一部視野に入ってしまうためです。原理的にこの影はフラット補正で取り除けるはずなのですが、フォーカス位置がちょっとでも違うフラットを使うと補正出来ません。ちょっとしたフラット画像の問題がハッキリと出てしまいます。私の場合、望遠鏡がトラス構造なので、外光の影響を受けやすく、月が出ているとフラット補正がうまくいきません。


 また、一時原因不明のゴーストに悩まされました。これは、MOAGの光路開口部が十分でないために、入射光がそのエッジで乱反射を起こしているためでした。MOAGの内部仕上げは、アメリカらしいおおらかさ(笑)で作られており、開口部エッジをフラットブラックでペイントすることにより、回避することが出来ました。


いろいろ試行錯誤が必要でしたが、現在は問題なく使えていて、やはりその効果は確実に成果を上げています。

<望遠鏡側から光路を覗いたところ>

AO-Lのガラス、MOAGのミラー、STLのCCDチップが見えている。MOAGのミラーがCCDの視野の中に入っているのが見える。

AO-L Glass

STL Chip

MOAG-Mirror

 
 

<AO-L,MOAG,STL-11000M全景>

<メンテナンス中のSTL-11000M>

ビニングすると現れるストリークのような右方向へのにじみ