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 6week  2003/2/2 〜 8

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2月3日(月)

横浜線・淵野辺駅って知ってますか?僕は、この駅名を聞いた時、まったく見当がつかなかった。宇宙科学研究所がある駅なのですが、とにかく、埼玉の人間にとって、神奈川のこのあたりの地理は、闇の中なのです。

さて、今日は、ブラックホールのCG作成の為に、X線天文学という分野の研究者の方々に会いにい行きました。

実は、何を隠そう、僕は大の天文ファンでして、学生の頃は、毎週土曜日になると、仲間といっしょに暗い土地を探して、星の観測をしていました。高校の時は地学部に所属。将来は、天文学者になりたかった。その憧れの職業の人に会える訳ですから、今日は仕事とはいえ、ウキウキ気分で出かけました。

20年ばかり何もしていなかった天文の趣味ですが、最近、復活し、星の写真を冷却CCDカメラで撮ることにハマっています。空が晴れる日と、仕事で早く帰れる日がなかなか合わなくて、時々しかこの趣味の時間を持つことは出来ませんが、でもそれなりに楽しんでいます。

CCDカメラを望遠鏡につけて撮像しますが、その感度の良さには驚きます。光害により、肉眼では確認できない星雲などが、わずか30秒程度の露出をかけるだけで、浮かびかがるのですから、その威力には初めビックリしました。

しかし、十分な明るさの画像を得るためには、数分の露出が必要になります。露出時間が長くなると、いろいろな障害が起きますが、一番大きいのが、空の明るさとCCDのノイズ。

都心から離れているとはいえ、僕の住んでいる春日部でも、夜空はかなり明るく、バックグランドが25000位(完全な白が65535として)になってしまいます。長時間露出をすると、もう真っ白になってしまってターゲットの星雲など、すぐに飽和してしまいます(ちなみに山などの暗いところでは、500程度だそうです)。これを避けるためには、光害のもととなっている光をカットするフィルターを使います。ただし、そんなにうまくカットできるはずもなく、やはり、空の暗いところにいくのが一番いい方法です。

CCDノイズの方は、露出時間を長くすればするだけ増えてしまい、画質を下げる要因になります。ペルチェ素子を使ってCCDの温度を下げることにより、ある程度減らすことが出来ますが、完全には無くならない。そこで、画像処理の出番になるのですが、これがなかなか面白いです。

複数枚の画像を撮影し、それをコンポジットして加算処理していきます。こうすると、画像の共通部分だけが強調され、ランダムなノイズは相対的に減っていくことになる訳ですね。こうして出来上がったノイズの少ない素材画像は、32Bitのダイナミックレンジを持った画像になるのですが、通常のモニターが表現できる諧調は、8Bitなので、そこまでレンジを落とさなければなりません。32Bitのどの部分を切り出すか?もしくは、間引くか?という作業になる訳です。

 
この2枚は、同じ画像を明るさの表示レンジを変えて表示したものです。

上ににあげたM42の例で言うと、その中心部と辺縁部では、明るさが何十万倍も違うので、明るい部分をとれば暗い部分のディティールがみえず、暗い部分を出せば、明るい部分は完全に飽和してしまうことになります。

ここで、ガンマ特性を操作し、高輝度にいくにしたがってトーンカーブが寝るように補正していくと、暗い部分も写り、なおかつ高輝度部分も潰れない画像が出来上がります。

アナログの現像処理を考えてみてください。現像液は、光のあたった部分の方で強く化学反応を起こしますが、その分、現像液の劣化が起きて、それ以上の現像が進行しない特性があるそうです。そう!まさにそれが、”高輝度部分のトーンカーブを寝かせる”意味だったんですね。そうすることによって、フィルムトーンのようなしっとりした画像が表現できるわけです。
( 考案者の岡野さん(著名なアマチュア天文家)は、この処理を”デジタル現像”と呼んでいます。)

下に上げた画像は、RGBのフィルターをかぶせて別々に取った白黒画像に、上記の処理をしたあとで、色を付加し、加算したものです。


オリオン座・M42
露出時間が長く取れなかったので、あまりよく写っていません

このように、鑑賞出来る映像に加工する工程は、単なる画像処理という感じではなく、どちらかと言うと、CGでの絵作りの作業と似ています。作業する人の感性によって、まったく違った絵ができあがるので、かなり面白い作業です。

しかし、こうした 違う分野の画像処理を知ると、また改めてデジタルの面白さを実感しますね。CGでも、ダイナミックレンジを広くとってレンダリングし、トーンカーブを調整したら、フィルムトーンようなしっとりした映像が作れるのではないか?と思います。ちょうど家庭用カメラの絵と業務用カメラの絵が違っているのと同じですね。業務用カメラは、高輝度部分のトーンカーブを寝かせるようなニーコントロール処理をしているので、ギラギラしないしっとりとした画像が作り出せています。CGにもこれをやったら面白いと思います。

 
この右のM-3SII型ロケットですが、実は前にCGで作ったことがあります。
ハレー彗星が来た1986年のTBSの特別番組の中で使われました。

さて、本題の宇宙科学研究所ですが、静かな林の中にありました。
こんな環境の中で毎日宇宙のことを考えていられたら、どんなにか幸せだろうな〜。でも、実際にやると苦労の連続なんだろうけど...。

ブラックホールは、その強大な引力の為に、光さえも外に出しません。しかし、中心部に行くにしたがって、物質の密度が高まり、その結果、X線を発するようになるそうです。光さえも脱出出来ないその直前で、強いX線を発生するんですね。そこで、X線を使って観測を行い、ブラックホールの研究がなされているわけです。この観測方法によって、我々の太陽系が属する銀河系の中心部に、超巨大なブラックホールが発見されました。今回のCGは、その研究成果を発表するためのものです。

 
左が全体像、右が中心部のアップです。黒く抜けている部分からは光が脱出できません。

作っていったCGを研究者の方に見てもらいました。
ブラックホールの中心部付近では、物質がもの凄い速度で凝縮していくのですから、爆発のようなものが、そこかしこで起きるのではないか?という提案をしたら、実際にそのような現象が起きているのではないか、という論文があるそうでちょっとビックリ。素人考えもまんざら捨てたもんじゃないですね。

今回のような”趣味と実益を兼ねた仕事”は、とても得した気分。
今度は、F1の仕事でもこないかな〜(笑)。

 

13:15
宇宙科学研究所にて打ち合わせ
2月5日(水)

ライブでは、来年度の人材募集を行っています。
このホームページや、デジハリなどのCG専門学校に募集をかけていますが、今年は、3ヶ月に渡って、”CGWorld”にも広告を出してます。

この雑誌広告の反響が結構大きく、毎週平均10名程度の応募者があります。

送られてくる作品を見て思うのは、ソフトの進化も手伝って、誰でも容易にCGを作れる環境になったのだな〜ということ。しかし、容易に作れることに甘え、安易に作られたCGがあまりにも多い。これは嘆かわしいことです。

CGソフトがまだ成熟しきっていなかったころは、それを作る人の側にも心構えがあったような気がします。ここ数年の作品の傾向を見ると、キチンとしたコンセプトを持たない作品。ただ、画像が動いていることに満足しているものがとても多い。

物づくりの本質は、技術ではなく、その人の人格そのものです。そこを忘れないで欲しいと思います。

 

15:00
入社希望者・面接
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